US2017報告集_個人6

第5回海外学習のレポート 1年 KAJ さんのレポート

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スミソニアン博物館群とメトロポリタン美術館見学8日間の旅

アメリカ8日間を終えて

今回の研修旅行において、私にはどうしても参加したい強い意志とその理由がありました。私は幼少期からピアノを習っていたり、中学校の頃には美術部に所属し部長も務めていたほど芸術や自分を表現することが大好きです。そして将来は、デザインを通して最新の情報をよりたくさんの人々に早く届けられるような職業に就きたいと思っています。なので、今回の研修旅行で、世界の最先端の情報が集まる都市や場所を訪れ、たくさんの美術館や博物館へ行って「本物」を見ることによって感性を磨き、将来の夢の実現や自己の成長につなげ、事後学習においても分かりやすく印象に残る発表の制作をしたいと思い、参加応募しました。

3月18日から25日までの8日間に、杉本先生、添乗員の牧瀬さん、そして今ではかけがえのない9人のメンバーと共に、アメリカ合衆国の首都ワシントンと最大の都市ニューヨークに研修旅行へ訪れました。海外や飛行機など、全てが私にとって初体験だったので、期待や興奮だけでなく、緊張やプレッシャーも多く感じながら出発を迎えました。
航空宇宙博物館(本館、別館)や硫黄島記念碑、ベトナム戦争・朝鮮戦争の戦没者慰霊碑、アメリカとは深い関係はないかもしれませんがホロコースト記念博物館など、戦争関連のものを多く見ました。アメリカは国としての歴史が他国と比較して短いですが、戦争の歴史はとても充実したものになってしまっていることを実感しました。その原因としては、アメリカが世界の中心的存在の一つであり多様な国と関わっていることに加え、本当にたくさんの戦争に参加していているということで、また、現在もその状況は変化していないと思います。特に硫黄島記念碑は事前学習で自分が調べたということもあり、記念碑の詳しいエピソードや元になった写真を鮮明に覚えていたので、実際に見たときの迫力に対する感動は大きかったです。

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またホロコースト記念博物館には、ユダヤ人の人々が受けた迫害の様子を生々しく物語る展示が数多くありました。「ホロコースト」とは、ギリシャ語で焼かれた生け贄という意味で、名前からも事態の酷さが伝わってきます。記念博物館の中でもアウシュビッツ強制収容所で実際に使用されていた、使い古されて真っ黒になった数えきれないほどの本物の靴が、ガラスに仕切られずに目の前で積み重なって置いてある様子は、強烈なインパクトを私に残しました。あまりの驚きに息をのみ、その場で自分が固まってしまったのを今でも鮮明に覚えています。そこの2階の偉人を紹介するコーナーには、ユダヤ人向けのビザを2000枚以上発行して命を救った、瑞陵高校の卒業生で私たちの先輩でもある杉原千畝さんの展示もありました。この記念博物館は3月に入ろうと思うと4か月前の11月には予約しなければいけないような所ですが、杉原千畝さんの名前を借りて牧瀬さんのお力により、特別に入らせていただくことができました。このようなことからも、私たちは杉原千畝さんの後輩であることを堂々と名乗れるような立派な人間に成長するために、日ごろの様々な努力や意識を決して欠かしてはいけないと強く思います。

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桜がきれい(当日はあまり咲いていませんでした)で有名なタイダルベイスンに「絶望の山」とよばれる、マーティンルーサーキングジュニアが彫刻されている白い大きな石もよく印象に残っています。絶望の山は、キング牧師の「どんな絶望もひたすら前を向いて進めばいつか必ずなくなる日が来る。」という信念に基づき、真ん中できれいに半分に割れて開いており、私たちはその間を歩くことができます。黒人差別撤廃に強くはたらきかけたキング牧師がいるここは名所らしく、たくさんの人々が訪れていて、そのほとんどは黒人の人々でした。

私がここで気づいたことは、訪れている黒人の人々の感情がすごく高まっていたようだったことで、はしゃぎまわったり万歳をしたりしていて、感極まって泣いている人々さえいました。キング牧師は本当に偉大な人であり、今でも人々の心の中に生き続けているのです。また、私はこの光景を見て、黒人差別がいかに残酷で根深いものであったかを改めて知り、もしかしたら今でも、日常生活の小さな見えないところでは差別の名残のようなものがあることにより、辛い思いをしている人がいるのかもしれないと思いました。もしそれが本当であったならなおさら、それはアメリカだけでなく世界中すべての人における、過去、そして今後の課題です。社会科の教科書に書いてある過去ではなく現在の私たちの問題です。

タイダルベイスンのキング牧師の彫刻と、2日目の朝に訪れたアーリントン墓地にあるケネディ元大統領のお墓の元には、それぞれが大統領就任時にした演説の文章が石に刻まれていました。全てではないものの、これらの演説文を、私たちは事前学習の一環として暗記、暗唱しました。当時は、「せっかくの機会だし覚えられるのはありがたいなぁ。」程度にしか思っていませんでした。しかし、自分が一生懸命覚えた歴史に残る言葉が、何メートルにも渡って彫られている景色を実際に見ると、「あぁ、あの時頑張って良かった。」と心から嬉しく感じ、自分たちが覚えたことは、ただ自分の知識等のためだけでなく、持つべき意識や研修旅行でより充実した実感をくれたのだと思いました。最も直接的な研修旅行のありがたさの一つでした。

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ニューヨークで行ったグラウンド・ゼロもまた、私に大きな衝撃を与えました。私が1歳の頃に起きた同時多発テロは記憶には全くなく、実際の街の様子を見たことはほとんどありませんでした。展示には、かなり最近に起こったことであると再確認されるほどに当時のまま残されている、実際に現場にあった物や、テロに遭った人の撮ったビデオが多く、それを見て今までの、地上にいた人の危険度は低かったという自分なりの愚かな推測が覆されました。ビデオでは、地上は瓦礫の破片等が濃い煙に混ざって急速に迫ってきて、全速力で走っても逃げられないという状況でした。ビデオを撮っていた人も走って逃げているようでしたが、煙の広がるスピードは速く、次第に追いつかれて、最後は煙に飲み込まれたシーンでブチッとビデオが切れました。
ガイドさんのお話によると、展示されているビデオを撮った人たちもまたほとんど亡くなってしまったということです。それを知って見たビデオはすごく私に突き刺さりました。そして、自らを犠牲にして大切なものを後世に残してくれた人のためにも、9.11の事件を忘れず、二度と同じことを起こさないためにも、私たちも語りついでいかなければならないと強く思いました。

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ここからは私の今回の研修旅行における一番の目的である美術館について書きます。ワシントンでは「ナショナルギャラリーオブアート」という美術館に行きました。疲労のために全力で鑑賞できなかったことが悔いに残っています。ここには中世の絵画が多く印象に残っています。写真やレプリカではよく宗教画などは見かけますが、本物の絵を生で見ることはめったにありません。近くでじっくり見ると、いかに立体的に、そして艶やかに見せるか研究し尽くされたかのように、影と光の具合が絶妙に表現されていました。自分が絵を描く時いつも表面的な絵になってしまうので、それに生かしていきたいし、絵全体の明るさや光の差し込み方、角度や人物の向く方向によって見る人に具体的にどのような印象を持たせるかということが少しながら分かり、嬉しかったです。

ニューヨーク2日目にはメトロポリタン美術館に行きました。正面に立っても端から端までが見えるか見えないかという程大きな美術館でした。およそ140年前に完成し、現在に至るまでに何度も増築を重ねたため、広大で複雑な構造になりました。実際に私も館内で相当迷ってしまいました。壁や柱、床の造りと色にも細かく工夫がされていて、絵を見やすいように蛍光灯は一切使用していないらしいです。世界的な美術館だけあって細かいところまでこだわっているという印象でした。最初に見て感動したものは、ティファニーの息子が製作した何枚かのステンドグラスです。ガラスとは思えないほどの色づかいで、グラデーションや色の混ざりを駆使していて景色を鮮明に描いていました。特に夕日が入った作品が多く、空が太陽の色に染まっていく様子がステンドグラスの特色を生かして明るくきれいに表現されていました。

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次に中国展を見て、日本展を含め様々な国の展示があることに驚きました。中国展にある建物等の展示品は、中国で作ってから一度解体しアメリカまで運び、設計者やインテリアデザイナーなどの内装・外装関係の専門家を呼んで組み立てたそうです。天窓があり、日光と日陰の両方を取り入れて自然な中国の建造物を表していたのだと思いました。
ベラスケスの絵を見ている時にガイドさんが、左45度に明るい色の絵の具を落とすことにより光をあてる技法を用いられていることを教えてくださいました。その絵は人の肌が薄く艶がかっていました。

最後はニューヨーク最終日に行ったニューヨーク近代美術館(MoMA)です。この美術館は私の中で一番気に入った美術館でした。日本人の谷口吉生さんという方が建築されたそうです。館内は吹き抜けでフラットな構造になっていて、透明感のある美術館だと思いました。建物全体からも近代という雰囲気を感じることができました。日本語のガイドレシーバーもあり、展示されている作品についてより詳しい理解をすることができました。特に印象に残っている作品を紹介します。

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一つ目は、ヴィンセント・ファン・ゴッホの「星月夜~糸杉と村~」という有名な絵画です。当時のゴッホの心境と絵の様子を結び付けているという点に納得しましたが、私は巧みな絵の具の使い方による風景の描写に対しての方が感動し、絵から離れがたいほど見入ってしまいました。暗い夜空に月と星が輝いていますが、それぞれの星の光り方を、使っている色やその色の使い方の工夫によって異ならせているのです。また、中央の渦も、星と夜空の色だけでなく、ほんの少しだけ赤みを帯びた灰色も用いて表現されていることに気が付きました。渦の巻く様子を美しく見せるために、絵の具の塗る色の配置もものすごく計算し尽くされていると思いました。私はこの作品を見たことを一生忘れないでしょう。

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次に紹介する作品はパブロ・ピカソのギターをイメージした立体作品です。廃材のような金属板を形に切って、尚且つ壁に掛けられるように作ってあり、彫刻と絵画の融合と言われているそうで、「なるほど。」と思いました。この作品で感動したところは、ピカソの信念を巧妙に取り入れ、主張されているところです。写真のように、ギターが開けて芯と内部がさらけ出しているようになっていて、ギターの真ん中の本来ならば穴である丸い部分が円柱で作られています。これは、形ないものを形あるもので表現することにより、ネガティブな存在からポジティブな存在へと変えているのです。ガイドレシーバーでそれを聞いて知った時私は、ピカソ自身の人生や信念をわずかながらも、理解することができたと思いました。

最後はクロード・モネの「睡蓮」の一つで横幅が数メートルにまで及ぶ大作です。この作品では池に映るものを描くことで水を表現しています。絵が大きいのでまるで池の真ん中にいる感覚を起こします。水分の少ない絵の具が使われているのに、全体的に透明感にあふれているなと思いました。絵の右側は樹木などによる影ができていて、動物などがそこにいるかもしれませんが、モネは水蓮と水に映るもの以外は描かないというこだわりをもっているので、うっすらと暗い様子しか分かりませんでした。モネが水という透明な存在とどのように向き合い、葛藤したかということが伝わります。ゆえに、絵の中の池の水が青いのは今まで、水には青いというイメージがあったからという単純なことしか考えていませんでしたが、池に映った空と水の濁りが混ざった、唯一無二の色を表していたのだと、やっと理解することができました。絵からも大変静かで落ち着いた雰囲気が伝わってきて、モネは絵をかくことにさぞ集中し、情熱を注いだであろうと思いました。この美術館を訪れて、自分の知らない素晴らしい作品にたくさん出会えたことに加え、偉大な芸術家たちがどのような心境で作品の製作を行っていたかということが分かり、本当に有意義な時間を過ごし、自分の感性が更に磨かれ、心の底から「来て見て、よかった!」と思います。

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ニューヨークが本場であり一つの芸術である、ブロードウェイのミュージカルも見てきました。元々は「アラジン」を見る予定でしたがチケットが取れず、「PHANTOM(オペラ座の怪人)」を見ることになりました。私はアラジンが見たかったので少し乗り気ではありませんでした。しかし、いざ見てみると演者の歌唱力や舞台の音楽や仕掛けに圧倒され、聞き入ってしまい、特に演技は疲れている私の心の中にも直接届くほど素晴らしく、フィナーレでは本当に本当に感動しました。PHANTOMを見てよかったと言い切れます。そして、もう一度ニューヨークに来て、もう一度PHANTOMを見ようと強く思いました。

この8日間で、私はどれほど成長できたのでしょう。まだ自分で分かることはできません。それは、この素晴らしい経験を積んだ私がこれからどのように成長し何者に成りゆくのかという選択肢が、無限大に広がっているからだと思います。この経験をどれだけ自分に生かし、どれだけの人に貢献できるか、それらは全て自分自身にかかっていることを、旅を終えてからより一層強く思うようになりました。
この経験を財団の皆さんが私に下さったように、私も将来たくさんの人に大きな変化やチャンスを与えられる人間になりたいです。そのための第一歩として、今回の旅で学び得た知識や感性を本当に自分のものにするために、勉学に更に励み、読書や芸術鑑賞などを増やして、尚且つ集中して取り組むことを、実現させていきます。そして、この経験をいつまでも忘れず、リーダーシップをとることができて、自分の意思を行動に移せる人間になりたいです。
私は、瑞陵高校の卒業生、在校生、これから瑞陵生になるすべての生徒の人たちに、簡単なことではありませんが、このような取り組みを続け、さらに拡大をしていくべきであると伝えたいです。なぜなら、高校時代に海外の素晴らしい国へ行き自分の価値観などを変え、そのための事前学習でもたくさんのことを学べるという経験を、必ずしもたくさんの人ができるわけではないからです。このような経験は、私たちの人生に莫大な変化をもたらしてくれることでしょう。そのような人たちがもっと増えてほしいと思います。
この「一般財団法人瑞陵高校助成基金」という財団を後世に繋ぎ発展させるためには、私たちが率先して企画や運営に携わったり貢献したりするだけではなく、瑞陵生の、財団を継続させたいという声や気持ち、そのための寄付などが不可欠なのです。瑞陵生全員で、瑞陵高校、愛知県、そして日本の未来を作り上げていきましょう。